【400字以内小説】#8 文字の声

「文字の声」

たとえば文字からモジやモンジという響きが聞こえても、そんなには驚かない。けど、たとえばタマゴという声が聞こえたら、やっぱり驚愕する。あたしは驚愕した。文字(という二文字)を見ていたら、いきなりタマゴ、タマゴって脳内に響いたから。うわぁ。こんなんじゃオチオチ読書もできない。そういうわけで、あたしは最初、ふてくされて不良になった。そのうち、こんなんじゃあ立派な大人になれないなあ、お嫁さんにもいけないよと考え出して(ちなみに当時、あたしは十四歳だった)、いっそ文字を見たらタマゴという声を聞いちゃう人とかが他にいないかを探そう! と前向きに行動した。それから苦節三年。あたしは、立派に「ある言葉から別の言葉(の音声)が聞こえてしまいます」人間たちの班を結成した。一人だけ紹介します。隣町に住む年下のエライくんです。エライくんは公園という字を見るとハンザイって聞いてしまうのよ。困った人です。偉いなあ。

2019/12/09