【古川日出男の番外地】#1 ナンバーガール

「ナンバーガール」

江東区豊洲6丁目・番外地

2004年に私は『ボディ・アンド・ソウル』という奇妙な小説を発表した。主人公はフルカワヒデオで、私・古川が実際に体験した出来事が多々含まれていた。この小説の第1章は、そして、次の文章で終わっている。「あさってナンバーガールが解散する」。このフレーズを含んだ挿話は、2002年11月28日のお台場でのライブを描写していた。ナンバーガールの、だ。それから17年が経った。私はお台場の、ほとんど対岸である豊洲にいた。ライブ・スペースの豊洲ピットにいた。そこに鉄の風が吹いた。いきなり、オープニングに、あの鉄風が。そこから続いたのは、ノイジーさと重さと軽やかさと、要するに「彼らしか持たない」音だった。音の連続、塊まりだった。もちろん言葉(詞)も、重いし軽いし、いや、軽やかで跳躍しつづけて、オーディエンスを刺した。しかもこのバンドは音をさらに掘っていた。掘り下げていた。余裕の凄みすら、時おりの瞬間、見せた。と同時に、ツアー初日ならではのキワキワ感も。すばらしかった。どうして17年ぶりに、これが聴けるのだろう、私はそう思った。ちなみに私の2007年の小説『ゴッドスター』は、はっきりと明記はしていないのだが豊洲が舞台で、しかも登場人物のカリヲ(彼は2012年の小説『ドッグマザー』の主人公である)の実母は、現在まさに豊洲ピットが置かれている付近に埋められた。遺体が。私はそのように設定していた。そこは、だから、番外地なのだ。帰路、私は地下鉄に乗ったのだが、そこにはライブ帰りの人たちがけっこう同乗していて、ある瞬間、私はとある会話に口を挟むことまでしてしまって、ああ、こういうのって10代の終わりとか20代の初めとおんなじだな、そういう頃のライブ帰りと、などと打たれた。なんというか、幸せだった。私は。