依然、実況を続ける

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2021.05.15 – 2021.05.28 東京

いま、この「現在地」を書いている時点では発令されていないが、(東京都の)緊急事態宣言は、来月20日まで延長されるだろう。私はここのところ、「現在地」で緊急事態だのなんだのに触れることを意識的に避けてきた。コロナ禍について触れれば現代についてコメントしたことになる、ような満足感とは違うところにいたかったから。しかし、ちょっと書いてみよう。なぜならば、私は連載小説『曼陀羅華X』の脱稿までのラスト・スパートに入って、もう5週めになるから。

この「現在地」の異なるバージョンとして、私は「番外地」というのを何度か書いた。うち1回は、昨年の4月1日に書いてアップした。その「番外地」のタイトルは『ペスト』だった。もちろんこれはアルベール・カミュの小説のことだ。コロナ禍で爆発的に売れた小説のことでもある。私は新型コロナウイルスが世界を襲う前からこの小説を『曼陀羅華X』内に登場させていて、にもかかわらず『ペスト』という作品はいかにも「流行りの文学」になってしまった、だけれども『ペスト』が登場しない形には、『曼陀羅華X』は直さない……という宣言をしたのだと、そんなふうに記憶している(読み返していないのですまない)。

そこまで宣言して、しかし、『ペスト』に言及した『曼陀羅華X』内のパートはまるごとオミットされた。消し去られた、ということだ。そういう決断をするとは、あの昨年の春の時点では思ってもいなかった。そして、緊急事態宣言が、こうして3度めのものが来て何度も延びる、という未来も。私個人は予想していなかった。なのに私の作品は予想していた。つまり『曼陀羅華X』がだ。あそこには、主人公が書いた「禁酒法時代の東京」というのが登場する。もちろんコロナ時代が訪れる前から、この設定は書き込まれていた。そして、現在の東京は、どうだ? まさに禁酒法下だ。

こちらの予言は当たってしまった。そういう、真っぷたつに分かれた物語世界を内蔵した(あるいはポテンシャルとして孕んだ)小説を、いま着地させようとしている。エンディングを迎えさせようとしている。ずっと書いている。なんと、あと何十枚かで終わる地点にいる。もしかしたら30枚かもしれない。わからない。さきは読めない。所詮、私という個人(私という「人間」)には予言能力はない。しかし私の創作にはある。私の創作物には、なんだかつねに、そういうものがあるのだった。だから。

結果はどうあれ、やる。いよいよ6月5日の脱稿予定日までは、もう10日を切った。