ちょっと怒ったりもしてみる

ちょっと怒ったりもしてみる

2021.07.10 – 2021.07.23 東京

私はいま「日記」というものに憑かれている。その理由は、まあ数カ月後には表向きになるのだけれども、小説家としての作業に関わる、とひとまず記しておく。で、「日記」に惹かれているのだから今日の日付を入れると、もちろん今日は7月23日で、東京オリンピック2020が開幕した。私は、仕事上の必要から午前6時台には(東京の)都心部をめざした。ふたつの作品のための取材をしなければならなかった。結局、私は、午後5時前のこの「現在地」執筆の段階で、17キロだか18キロだかを歩いている。

去年のこの日はどうだったか? 去年のこの日は、福島に入ったのだった。栃木県の那須町から北上して、福島県の白河へ。それが私の、『ゼロエフ』という本のふたつめの核となる行動の、スタートだった。いま私が思うのは「ああ、去年の行動(歩行、取材、思考)でよかったな」ということだ。あれから1年を経て、東京五輪はなんとも無惨で、もしも私が今年歩いていたら(つまり1年延期していたら)、私は思索の種というのをずいぶん拾いそこねた気がする。

私は今日、ほんとうにたまたまなのだが午前11時半過ぎから神宮外苑前だの、国立競技場の横だの、斜めだの、そういうところにいたので、「え?」というタイミングで大空にブルーインパルス6機が飛ぶのを見た。もちろん五輪のために飛んでいるのだ。五輪を祝して飛んでいるのだ。私は、「なんでブルーインパルスは、おととい(7月21日)、福島県営あづま球場の上空を、午前8時台に飛ばなかったのかな」と思った。その日から、その場所で、オリンピックの競技(女子ソフトボール)はスタートした。だったら、そこで飛べばよかったじゃないか。だって、事実としてその時から始まったんだぜ。そういうのを開幕っていうんじゃないの?

私は、まるまる9時間も都心にいて、けっこう広範囲に動いていて(湾岸部にもいた)、いちども、たったの1文字も、〈復興〉だの〈福島〉だの英語表記で〈Fukushima〉だの〈the Post-Disaster Olympics〉だのという言葉は見なかった。すごいことです。ほとんど感動しますよ。

でも、感動するのならば別種の感動をしたいのだ。私は。

拙著『ゼロエフ』の帯には「そうか、『復興五輪』も消えるのか」との言葉が載る。こういう本が、先日、「Yahoo! ニュース|本屋大賞 2021年ノンフィクション本大賞」の候補作に選んでいただけた。推してくださったのは現役の書店員さんたちだ、とのこと。その気概に打たれる。私は感動したし、そうなんだよ、感動というのはこういうことでしたいんだよ。じきにもっともっと、その「そうか、『復興五輪』も消えるのか」のフレーズ(の文字の大きさ)がでかい帯の『ゼロエフ』が流通する予定で、そういうのはね、はい、戦闘宣言です。

書店員のみなさん、ありがとうございます。

ここのところ猛烈に仕事をしている。今日の「日記」に補足すれば、私はたぶん、秋には短い「オリンピック小説」を発表します。それと平安朝(の日本のコア)にもダイブしている。それと『曼陀羅華X』の、単行本用にエディット/再構成した原稿というのも完成させて、担当者たちに渡した。他に大きな物語をひとつ、転がしてもいる。なんかもう、やるしかないだろ。