ゲラの海に溺れ、ルビの森を繁らせる

ゲラの海に溺れ、ルビの森を繁らせる

2020.01.11-2020.01.24 東京

体調は戻った。私は、今年はひとつの信条を掲げているのだが、それは「(私に)後退という選択肢はない」というものだ。これは『曼陀羅華X』の主人公のひとりが、来月、雑誌のうえで発言する台詞でもある。いずれにしても、この気持ちに私はまったく同意する。後退したって始まらない。どうせ、停まっていたって後ろにベルトコンベアで運ばれてしまう時代である。誰だって後ろに、後ろにと放り投げられてしまう時代である。私は前進するし、周囲の状況も前進させる。正直に言えば「前進させたい」との願望になる、わけだが。

『木木木木木木 おおきな森』は全体で原稿用紙1600枚分あった。ほぼ半月、そのゲラに没頭した。何カ所か、徹底的に推敲しなければならないパートがあって、そこは修正液でガビガビになり、ゲラの余白が足りないので紙を貼り足すことになり、いったん朱字を入れた後に2度か3度、確認し直すという羽目になった。が、そこまでやったら、満足した。こんなに真っ赤なゲラでどうなるのかな……と不安にもなったのだが、昨夕、担当編集者に渡したら「こんなのぜんぜん赤くないじゃないですか。ぜんぜん問題ないですよ」と言われた。頼もしかった。ぜんぜん頼もしい(と副詞をあえて誤用する)。それと、この小説では編集者との共同作業で「登場人物表」というのを作った。大変にいい感じなので、うれしい。早く人に見せたい。

坂口安吾のことを考えガルシア=マルケスのことを考え、宮沢賢治のことを考え小林秀雄のことを考えている間にも(みな『木木木木木木』に登場する/ご出演願うわけだ)、今年という時代のこと、また、来春までの福島のこと、そういったことを考えて、自分の〈思い〉というものを深めている。その〈思い〉をどうにか〈思想〉にまで昇華できないか、と、そうした無謀なことを望んでいる。明後日は福島に戻る。甥っ子と兄の力を借りる。

しかし、いま現在目の前にあるのは、じつは次のゲラだ。『曼陀羅華X』新章の新連載第1回の原稿は、160枚になった。一挙掲載する。この原稿のゲラを、少し前から(『木木木木木木』のゲラと並行して)やっている。1600枚足す160枚、というと、なにやら宇宙的である。この時代の、この世界が、どうにもボロボロになっているならば、私は最初から「もう宇宙でいけばいいや」的なノリで臨もうと考える。時代がどうした、世界がどうした。宇宙はでかいし、そもそもマルチバース(多宇宙)だろうが、とか思っている。思っていると、なにか気が楽である。『木木木木木木』は理系の人にも読んでもらいたい。妙な願望だが。