【400字以内小説】#15 初詣で

「初詣で」

とうとう姉弟二人だけが残った。「できるのは、祈ることだけだな」と姉は言い、弟と初詣でに出かけた。賑わいすぎない神社を選んだ。「どうして?」と尋ねる弟に、姉は「祈願の数が多すぎると、たぶん神様はさばき切れないっす」と答えた。鳥居をくぐり、拝殿の前で真剣に拝んだ。ある記憶が姉の脳裡によみがえって、それは弟が五歳の時にたしかキリスト教の洗礼を受けていたとの事実だったのだが、「いまは棄教してるし、ま、どうにかなるっす」と考えた。祈願し終えて、参道を戻り、再び鳥居をくぐろうとしたのだが、ふと見ると、弟は鳥居を外れてそのまま神社の境内から出ようとしている。「まーーーずいっ!」と姉は叫んだ。視界から弟の姿が消える、との恐怖に駆られたためだ。そうはならなかった。鳥居を抜けた姉自身がこの世界から消えた。そして神様の前に立っていた。「あのねっ」と姉は神様をにらみつけて、すると神様、「わっ、ごめん!」

2023/01/01