【400字以内小説】#6 愛

「愛」

もしも私が殺人鬼だったとしよう。もしも私が地上のほとんど全部の人間を殺したのだとしよう。そして、とうとう最後の一人までも殺しえたとしよう。すると、私はこの地上に生きのびている唯一の人間なのだ、ということになる。それから、私は誰もこの私のことは殺してくれないのだとも悟る。そうしたら、ボロボロと涙を流すことだろう。誰か、誰か、私を殺して。そう叫ぶのだろうし、やがて現われる誰かに感謝することだろう。私を殺しに現われるその誰かは、きっと神なのだろうけれども。

2019/09/26