【400字以内小説】#2 緊急事態

「緊急事態」

俺のアパートメントの玄関前に不審な男が立っていた。背広姿で、普段の俺はそんなタイプの男になんて縁がない。なんだ、こいつ? しかも俺がその歩みを進めるや(つまり、近づいたら、だ)、いかにもプロでございってな感じで気配を察して、こちらをふり返る。それから俺の目を見、俺の名を呼び、咳払いもなしに「警察のものですが」と言った。そんで、手帳のようなものを開いて、掲げた。おい、それって警察手帳かよ? しかしだぜ、おい。俺はこれまで生きてるなかで一度も警察手帳なんて見たことがないんだから、それをチラッと見せられて信用できるか? できますかって? で、俺はグイと近寄った。その手帳に顔(というか両目)をグーと近づけた。すると、男はいきなり俺を殴った。ニセ警官であった。く……くそ! 上手を取られた。俺たちは蹴り合う。

2019/07/07