【400字以内小説】#17 HELP

「HELP」

もはや救済を待つしかない。 その大雪の日に、彼女は庭に出た。 防寒服の類いはしっかり着込んだ。 非常食も持った(シーチキンの缶詰もあった)。 雪のドームを作った(いわゆる「かまくら」だ)。 数時間後、そのドームの入り口に、遭難者は現われた。 「にゃあ」と言った。雪の夜の猫だった。 「うわっ、あんた、大丈夫? 入りな。あっ、シーチキン、食べる?」 猫は魚肉をむさぼった。 そして彼女は悟る。 ……あたしって


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【400字以内小説】#16 文学か魚介か

「文学か魚介か」

そのレストランに入るのは倍率的に難しかった。が、入れた。受付を終えて、いきなり示されたのは見開きのメニューだった。左側には「カズオ・イシグロ」とあり、右側には「カツオ・ノドグロ」とあった。ノドグロ……赤ムツのことだ。大変に美味しい魚だ。うわあ、どっちを選んだらいいんだ! 2023/01/17


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【400字以内小説】#15 初詣で

「初詣で」

とうとう姉弟二人だけが残った。「できるのは、祈ることだけだな」と姉は言い、弟と初詣でに出かけた。賑わいすぎない神社を選んだ。「どうして?」と尋ねる弟に、姉は「祈願の数が多すぎると、たぶん神様はさばき切れないっす」と答えた。鳥居をくぐり、拝殿の前で真剣に拝んだ。ある記憶が姉の脳裡によみがえって、それは弟が五歳の時にたしかキリスト教の洗礼を受けていたとの事実だったのだが、「いまは棄教してるし、ま、どうにかなるっす」と考えた。祈願


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