あと3週間

あと3週間

2023.10.28 – 2023.11.10 東京・京都・埼玉・神奈川

パンオペこと『京都という劇場で、パンデミックというオペラを観る』のための年内最後の京都取材を終えた。これで今年はいったい何日京都に滞在したのだろう? 併せて、今年はいったい何日福島県内(の3地方。浜通り・中通り・会津地方)にいたのだろう、とも考える。雉鳩荘に越してきて、その理想は前回もこの「現在地」に書いたように、この土地に腰を据えて執筆に専念する……はずだったのに、まあ夢は破れつづけている。が、ここには基本的に仕方がない要素もある。私は、文学者というのは表現し、行動し思考もする存在でなければならないと思っていて、その実践は、要するに心身をボロボロにするということだ。けれども、その辺で拾ってきて単にペーストしたような思考(それっぽい〈思想〉もどき。自分の〈スタンス〉を示すだけの旗)ではない次元をめざすには、たぶんボロボロになるのはデフォルトだ。なにしろ単にペーストすることに専念しながらもボロボロになっている人たちが、見たかぎり、わんさといる。

そのパンオペ取材の数日間、じつは文庫『女たち三百人の裏切りの書』関連の最後のゲラを携えていて、作業していて、また文庫『平家物語』の第2巻も同行させた。後者は発売前の見本だった。そうやってパンオペを前進させながら、来年1月頭までに出る7冊の、これは『の、すべて』刊行からカウントしての7冊だが、相当な作業が完了へ向かった。あとは数日以内に文庫『平家物語』第4巻の「後白河抄・四」そして「文庫版あとがき」の最終段階を突破するだけだ。もうじきだ。もうじきなのだと思う。そして、とはいえ、今月末には「文藝」誌に連載しているパンオペの最終回、その脱稿である。

ちょうど3週間後だ。いまの予想だと、間に合わない。しかし言うまでもないけれども喰らいつく。ふたたび朝の6時台から夜の10時台(22時台)まで働きつづける日々に突入した。朝日新聞の「文芸時評」のために就寝直前まで同時代の作品群に目を通していると、そのたびに「自分の作品との同調(チューニング)」から遠ざかる。が、踏みとどまっている。ところで数日前には、すでに上演されているある自作のある上演台本を、完全な〈戯曲〉として形を整えた。この完成形は、もしも「よいこと」が起きた場合のみ「日の目」を見る。はたして見るのだろうか、そういう太陽の明るさを? しかし待とう。この完成形のために、じつは2カ月粘った。私は人知れず、いろんなプロジェクトを同時進行させている。

と、こう書くと、どこかから「だから忙しいんだよ。きみは」との声が聞こえそうだ。しかし、私もあれこれ毎日を検証しているのだが、自分が設定したスケジュールだけならば、たぶん自分は処理できる。問題は、この時代がもろもろのプロジェクト=作業の「事前の確認」だの「事後の報告」だのを過剰に要求していることにある。私は、どんな仕事も真剣にやる。で、やったら、つぎの仕事に移る。で、移りたいのに「あの件に関して、こうした確認を……」だの「これにお目通しを……」だの「こちらにご回答を……」だの、どんどん来る。事前にも来るのであって、それは不必要な会議を強いられるような、そういう類いだ。これはパンデミックが、オンライン会議を〈普及〉させた弊害だと思う。対面の会議ならば、相手の時間を奪っているという自覚が生まれる。が、オンラインのそれは、「空き時間にできるでしょう?」と思われている。

ちょっと待ちなよ。空き時間なんて、俺、ないよ。

だいたい会議というものは、何かを発想しているような体裁をとりながら、じつは「すでにあるスタイル」のどれを選ぶか、程度に終始している。要するに既存のスタイルをあっちから、こっちから拾ってきて、ひとまず検討して、そんでペーストしている。そういう作業だったら、私は、3分で終わる。なんで会議をするのだ? 問題は、オリジナルなスタイルを創出するのがどれほど困難かということで、それは1時間の会議では無理で、数十日ずっと呻吟することが要るということで、つまり会議では達成できないということで、たぶん「そんなふうなスタイルの創出は、その内容の創出とパラレルでもある」との真理だ。つまりコンテンツに傾注する必要がある。そしてコンテンツというのは、誰かがパパッと発言して埋まる、ということはない。ずっと書きつづけたり、ずっと書きつづけて捨てたり、ずっと書きつづけて捨てて改稿に改稿を重ねて、でもゲラ(刷り出し)も真っ赤にして捨てて、それから、みたいなところからしか埋まらない。

だから何だというと、だから私は中身を作りたい。真剣に、真剣に作りつづけたい。どうして世間は、外側のスタイル(=見た目)ばっかり、ああだこうだとデコッて……装飾してるんだ? と疑問形にしたが、答えは明らかである。「見た目」だけがサムズアップをもらえる。いいね。となってしまった時代を、私は居心地が悪いとは思わない。ただただ極度に不快に感じる。

不愉快なので壊したい。そのための死闘が続いている。