【400字以内小説】#4 輪廻転生もいろいろ

「輪廻転生もいろいろ」

あたしと彼との出会いは二年前にさかのぼります。あたしは会社で経理部に所属していて、彼は営業部の人間で、二歳年下で、あたしがある日、多忙過ぎてまともに昼食の時間がとれないものだからコンビニで買ってきたメキシコ産のバナナを齧っていたら、以来、あたしを「メキシコさん」と呼ぶようになりました。それで、あたしたちのデートは初回がタイ料理屋で、その出来事以来、あたしは彼を「トムヤム君」と呼ぶようになりました。一品めにトムヤム


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【400字以内小説】#3 ネコ目ギター科ノイズ系

「ネコ目ギター科ノイズ系」

おととい、私は死んだ。交通事故だった。けれども私は自分が即死したことに気づけなかったので、今朝になって自宅に戻った。私にとっての一番の問題は、問題というよりも「謎は」なのだけれども、では私は帰宅に至るまでの一日半の間どこにいたのか、だった。すると気がついた。私はネコをやっていたのだった。人にかまわれ、ネズミを追い……。その幸福に、私は感謝した。脳裡に轟音が響いた。 2019/07/20


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【400字以内小説】#2 緊急事態

「緊急事態」

俺のアパートメントの玄関前に不審な男が立っていた。背広姿で、普段の俺はそんなタイプの男になんて縁がない。なんだ、こいつ? しかも俺がその歩みを進めるや(つまり、近づいたら、だ)、いかにもプロでございってな感じで気配を察して、こちらをふり返る。それから俺の目を見、俺の名を呼び、咳払いもなしに「警察のものですが」と言った。そんで、手帳のようなものを開いて、掲げた。おい、それって警察手帳かよ? しかしだぜ、おい。俺はこれまで生き


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【400字以内小説】#1 もしも、猫が

「もしも、猫が」

その日、十数年前に逝った猫が電話をかけてきた。しかも猫はアメリカ人になっていて英語で話した。最初に妻が電話に出て(自宅の固定電話が鳴ったのだ)、必死に英語で応対した。それから私が受話器を取り、やはり懸命に話した。ひと言だけ私らしい英語で紡げた。こうだった…… No, I won’t look for it, just see it. (大丈夫、無理に探したりしない。死んだお前がいる世界は、うん、あるんだから) <


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