【400字以内小説】#7 いま、ここにいないとしても

「いま、ここにいないとしても」

「ねえ、あの世ってあるの?」 「あの世ってなんだい?」 「いわゆる死後の世界」 「死後の世界は、あるよ。もちろんある」 「断言できるんだ?」 「だって、死後にも世界はあるのは当然だ。死んでからも世界は続いている」 「あのさ、意味の取り違えが、起きてない?」 「『死後の世界がある』ことと『死後に世界がある』ことはおんなじだ。だって、ある人間がさ、男でも女でも日本人でも外国人でもいいんだけどさ、


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【400字以内小説】#6 愛

「愛」

もしも私が殺人鬼だったとしよう。もしも私が地上のほとんど全部の人間を殺したのだとしよう。そして、とうとう最後の一人までも殺しえたとしよう。すると、私はこの地上に生きのびている唯一の人間なのだ、ということになる。それから、私は誰もこの私のことは殺してくれないのだとも悟る。そうしたら、ボロボロと涙を流すことだろう。誰か、誰か、私を殺して。そう叫ぶのだろうし、やがて現われる誰かに感謝することだろう。私を殺しに現われるその誰かは、きっと


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【400字以内小説】#5 Jamming by Jam

「Jamming by Jam」

さて実験です。部屋に、瓶詰めのジャム、犬(できれば小型犬)、猫、ぬいぐるみの熊を置いて、そっと室外に出ましょう。ジャムは苺かラズベリー、そして蓋は外しておきましょう。帰宅は数時間後がよいです。部屋に戻ると……おや? ジャムが減っています。というか、ほぼ食べ尽くされています。では犯人はいったい何者なのか。あなたは犬をにらみます。その犬は思わず目をそらします。ついで猫もにらみます。猫は、そもそも目なんてもの


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【400字以内小説】#4 輪廻転生もいろいろ

「輪廻転生もいろいろ」

あたしと彼との出会いは二年前にさかのぼります。あたしは会社で経理部に所属していて、彼は営業部の人間で、二歳年下で、あたしがある日、多忙過ぎてまともに昼食の時間がとれないものだからコンビニで買ってきたメキシコ産のバナナを齧っていたら、以来、あたしを「メキシコさん」と呼ぶようになりました。それで、あたしたちのデートは初回がタイ料理屋で、その出来事以来、あたしは彼を「トムヤム君」と呼ぶようになりました。一品めにトムヤム


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【400字以内小説】#3 ネコ目ギター科ノイズ系

「ネコ目ギター科ノイズ系」

おととい、私は死んだ。交通事故だった。けれども私は自分が即死したことに気づけなかったので、今朝になって自宅に戻った。私にとっての一番の問題は、問題というよりも「謎は」なのだけれども、では私は帰宅に至るまでの一日半の間どこにいたのか、だった。すると気がついた。私はネコをやっていたのだった。人にかまわれ、ネズミを追い……。その幸福に、私は感謝した。脳裡に轟音が響いた。 2019/07/20


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