三百人と本人

『女たち本人による現代語訳「裏切りの書」』等

文庫化された『女たち三百人の裏切りの書』には巻末に保坂和志さんとの対談が収録されている。これは2015年11月に行なわれたものだ。ここで私は、保坂さんに、

〈ストーリー的にはこの(『女たち三百人の裏切りの書』の)続きはこのまま『平家物語』に接続するし、この話の前には『源氏物語』があるから、この本は終わらないという前提が〉

うんぬんと語っていて、それはどういうことなのか。たとえば『女たち三百人の裏切りの書』には「平氏たち」という章がある。そして、平氏の棟梁という人物も登場している。いったい、この棟梁とは誰か? 平忠盛がモデルなのだ、とここに明かそう。それでは、平忠盛とは誰か?

平清盛の父親である。そして平忠盛こそは『平家物語』の「一の巻」のその第二の章、「殿上闇討」の主人公である。そのようにほぼダイレクトにつながっている。それだけではない。『女たち三百人の裏切りの書』の影のヒロイン、後半部の重要人物である鞠姫というヒロインは、平忠盛の娘なのであって、ということはつまり、このヒロインは平清盛の異母姉妹なのだ。

要するに、『女たち三百人の裏切りの書』は物語として(ある意味で)直接『平家物語』に流れ込むような側面もあって、かつ、『平家物語』のその(ある意味で)じかの続篇が『平家物語 犬王の巻』である。また、これは保坂和志さんとの対話のなかで語られたことだが、『女たち三百人の裏切りの書』のその物語の前には紫式部が著わした『源氏物語』が存在/位置している。

そして、その『源氏物語』の前には? 私は『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』を配したのだった。すなわち、時系列で並べれば、

1 『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』
2 『源氏物語』(紫式部作)
3 『女たち三百人の裏切りの書』
4 (古川日出男訳)『平家物語』
5 『平家物語 犬王の巻』

となっている。読まれる順番は、これに従わないで(ぜんぜん)かまわないが。そして、1、の『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』はこの現在にも接続していて、そういう意味では、1、は、6、にも配置可能である。ただ、いちおう言っておけば、私はいま、0、に位置する作品のことも頭にはある。そして、私という作家が生きながらえるかぎり、こうしたシリーズ(?)は0から5や6で止まるとも、まだ断言はできないのだ。