の、すべて、のほんの少し #02

[  ]の、すべて

『の、すべて』の最初の楽章の、その基調とはいったい何か? これは「第一楽章『恋愛』」との扉を具えたパートであることから容易に察せられるように、恋愛小説であること、である。私は前作(『曼陀羅華X』)の刊行時から、「次作は軽やかな作品を発表したい」うんぬんと公言していて、たとえばそういうのは通信社のインタビュー記事などで活字になっていたのだが、その〈軽やかさ〉の体現がこの『の、すべて』の


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サマーバケーションEP EPサイズの解説

構造というもの

夏になると、本当にありがたいことに文庫の『サマーバケーションEP』に重版がかかることが多い。わずかな部数だけれども、こういう瞬間はひたすら純粋に感動する。今年もそうなったので、短い解説をここにアップする。つまりEP(45回転のレコード盤。シングル用)サイズだ。 この『サマーバケーションEP』は、全部で36章から成っている。全部、主人公の〈僕〉の語りである。ただ、じつは奇数章と偶数章


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ベルカの頃

2005年4月

これは『ベルカ、吠えないのか?』が刊行されるのに前後して、2005年4月に、ある媒体に掲載されたセルフ・レビューである。原稿にはいっさい手を加えていない。数字も、漢数字をアラビア数字には換えないでおく。ちなみにアンダーバー(_)に挟まれた文字、フレーズには傍点が振られる。脳内で変換してほしい。 *  今度、九作めの小説を上梓することになった。第一作を発表したのは一九九八年だか


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サウンドトラック 20XX

2022年9月11日に

あらゆる現代的な出来事は忘れられるのだ、との思いを、たとえば今日(2022年9月11日)のような日に感じる。〈9月11日(セプテンバー・イレブン)〉と言えば誰もが今後もずっと忘却することは不可能である、とその当時は確固と思えていたのに、それから21年が経った今日、ほとんど誰もその出来事、その、アメリカで起きた同時多発テロについて語っていない。それどころか、ニュースの見出しに「アメリカでも忘却されつつあって……」と


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コロナ時代の銀河・補

創りあげられる過程で

映像作品『コロナ時代の銀河』はその題名が示すように、コロナの時代には何ができない(とされている)のかをも主題としている。たとえば演劇の公演、音楽の公演ができない、という時期があった。いまもある。そして『コロナ時代の銀河』を撮影する前後にもあったので、私は「無観客の野外上演」というスタイルを選択した。だが『コロナ時代の銀河』とはそれだけのものではない。そのような「無観客の野外上演」が


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